• 呼吸器疾患を原発とした肺高血圧症(呼吸器関連肺高血圧症)の犬に対するシルデナフィルの効果についてアメリカのLynelle R. Johnson氏らは、25頭の犬を用いてプロスペクティブに研究を行った。その結果、シルデナフィルによる治療後1か月で三尖弁逆流速から算出した肺動脈圧は有意に改善することが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2020年1、2月号に掲載された。

    研究の背景

    肺高血圧症(PH)は収縮期肺動脈圧、平均肺動脈圧がそれぞれ30mmHg、20mmHgを超える持続的な上昇を特徴とし、主に①原発性肺動脈高血圧症、②MMVDなどの左心疾患に伴う心充満圧上昇による肺高血圧症、③肺疾患および/または低酸素症による肺高血圧症、④血栓塞栓症による肺高血圧症、⑤その他の5つに分類される。中でも②は犬のPHの最も多い原因とされる。一方で③のような呼吸器疾患を伴うことも少なくない。シルデナフィルは①や②のPHで有効性が報告されているが③のような呼吸器関連肺高血圧症での有効性についてはよくわかっていない。そこで著者らは呼吸器関連肺高血圧症の犬を用いてシルデナフィルの1か月投与による肺動脈圧およびQoLの評価をすることを計画した。

    呼吸器関連肺高血圧症の犬25頭にシルデナフィルを1か月間投与

    本研究には2014年から2016年の間に来院した呼吸器関連肺高血圧症の犬をプロスペクティブに組み入れた。組み入れ条件は三尖弁逆流圧勾配から算出した肺動脈圧が50mmHgを上回る犬とし、LA/Ao>1.6の犬や流出路狭窄のある犬、先天性弁膜疾患の犬、急性うっ血性心不全、腱索断裂の犬は除外した。

    呼吸器疾患の診断組み入れられた犬の呼吸器疾患の診断は病歴、臨床症状、身体検査、X線検査、透視検査、気管支肺胞洗浄を伴う気管支鏡検査などに基づき、気管気管支軟化症、炎症性気道疾患、感染性呼吸器疾患、間質性肺疾患、短頭気道症候群の診断を行った。

    治療内容

    組み入れられた犬に対してシルデナフィル2~4mg/kg/dayで1か月間投与した。追加薬剤の使用は制限されたが感染が疑われた場合には抗生物質、炎症または好酸球性気道疾患が診断された場合にはコルチコステロイド、気管気管支軟化症が疑われた場合にはテオフィリンが投与された。

    評価治療前後のQoLないし三尖弁逆流圧勾配を算出し、比較した。また、三尖弁逆流圧勾配およびQoLスコアと生存期間との関連性についても評価を行った。

    投与前後でQOL、肺動脈圧が有意に改善

    本研究には25頭の犬が組み入れられた。年齢中央値は12.4歳、体重中央値は6.5kg。臨床症状は失神(64%)、咳(56%)、呼吸困難(32%)であった。組み入れられた犬の呼吸器疾患は下表のとおり。

    シルデナフィルの用量

    投与されたシルデナフィルの用量は4.2mg/kg/dayでBID~TIDに分けて投与された。

    生存・死亡

    1か月以内に死亡した犬は8頭/25頭であった。生存した犬と死亡した犬とで組み入れ時のQoL、肺動脈圧に有意差は認められなかったが、生存期間と組み入れ時の肺動脈圧には弱い負の相関性が認められた(P=0.05, R2=0.16、肺動脈圧が高いほど生存期間が短い)。全体の生存期間は6か月であったが、シルデナフィルの治療後1か月生存した犬では生存期間は約1年であった。

    以下、1か月生存した犬においてシルデナフィル投与前と投与1か月後のQoLと肺動脈圧を比較した。

    QoL

    シルデナフィル投与前後のQoL(低いほどQoLが高い)は下グラフのとおり。

    結論

    これらの結果から著者らは、呼吸器関連肺高血圧症の犬に対してシルデナフィルで4週間治療できた場合には、QoLおよび肺動脈圧を下げる可能性があることが明らかになったと報告している。特に1か月以上生存した場合には長期生存が期待できることもあると述べている。

    参考サイト

    呼吸器疾患に伴う肺高血圧症の犬には○○が有効?

  • うっ血性心不全(CHF)の猫における悪液質の有病率および生存予後との関連性について アメリカのSasha L. Santiago氏らは、CHFの猫 125頭を用いてプロスペクティブに調査を実施した。その結果、マッスルコンディションスコア(MCS)で筋肉量が低下していた猫は 41.6%であり。これらの猫は筋肉量が正常で あった猫よりも生存期間が有意に短いことが 明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2020年1、2月号に掲載された。

    研究の背景

    心筋症は猫で多く認められる疾患であり、 うっ血性心不全(CHF)を引き起こす可能性 がある。CHFは心血管系だけでなく、全身状 態に影響をすることが分かっており、時に心 臓悪液質を引き起こす。心臓悪液質は筋肉量 と体重の減少を特徴とする消耗状態であり、 心不全での罹患率はヒトでは10.5%~42%、犬 では48~69%と報告されている。また、悪液質の定義として筋肉量減少と体重減少があるが、CHFではうっ血状態により体重減少が早 期に認められないこともあるため、筋肉量の

    減少の方が感度が高いとされている。そこで著者らはCHFの猫を用いて筋肉量を指標とした悪液質の罹患率と生存予後との関連性を評 価することを計画した。

    CHFの猫125頭の筋肉量、体重、BCSと予後との関連性を評価

    本研究には2015年6月から2018年9月までに 心筋症によるCHFと診断された猫がレトロス ペクティブに組み入れられた(心筋症の分類 は全ての型を対象とした)。心筋症の診断は 心臓の認定医によって超音波検査により行わ れ、CHFはX線検査ないし超音波検査により胸 水ないし肺水腫が認められた場合とした。なお、筋肉量の低下につながるような疾患(腫 瘍、慢性腎臓病など)や高血圧症を併発して いる症例は除外した。

    データ収集

    組み入れられた猫の年齢、性別、猫種、心筋 症のタイプ、ISACHC分類、生化学検査、体重、 ボディコンディションスコア(BCS, 9段階)、 MCS(正常、軽度減少、中等度減少、重度減 少)、生存期間に関するデータを収集した。 また、可能であればCHFと診断された後だけ でなく、診断される6~12か月前の体重を収 集し、変化率を算出した。

    悪液質の定義

    悪液質の定義は7つの基準を用いて評価した (ここでは3つを取り上げる)。
1. CHFの診断前6~12か月前の間に体重が5% 以上減少

    2. CHF診断時にBCS4/9未満
3. CHF診断時にMCSで筋肉量が低下(軽度、 中等度、重度)

    3つの悪液質の定義による罹患率は下グラフの とおり。

    評価

    これらの猫の各定義による悪液質の罹患率、 生存期間(CHFと診断されたから死亡するまで)との関連性について評価を行った。

    筋肉量の低下がCHFの猫41.6%で検出、予 後悪化と関連

    本研究には125頭のCHFの猫が組み入れられた。 年齢中央値は10.3歳、体重は5.0kgであった。 心筋症の型は肥大型が107頭、拡張型が8頭、 分類不能ないし拘束型が8頭、不整脈原性右室 心筋症が2頭であった。

    各定義による悪液質の罹患率

    CHF診断時のBCSおよびMCSの内訳は下グラフ のとおり。

    筋肉量低下の猫の傾向

    筋肉量の低下が認められた猫は、そうでない 猫と比べて有意に高齢(p<0.001)、胸水貯留 あり(p=0.003)、BUNの高値(p<0.001)、 好中球の高値(p=0.01)BCSの低下 (p<0.001)などが認められる傾向にあった。

    生存期間

     生存期間 MCSおよびBCSの分類ごとの生存期間は下グ ラフのとおり。

    結論

    これらの結果から著者らは、CHFの猫で心臓 悪液質は多く認められること、また悪液質 (特に筋肉量の低下)は生存期間が短くなることと関連することが明らかになったと報告している。そのため、CHFの猫ではMCSを用いて筋肉量の評価をすることが重要であると 述べている。

    論文情報  

    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.15672

    (こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です) ※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。

    うっ血性心不全の猫は体重、BCSよりも筋肉量が重要!?